包丁を買うときに必ず迷うのが「ステンレスにするか、鋼にするか」。
サビにくく手入れの楽なステンレスか、それとも切れ味と育てる楽しみのある鋼か──。
海外で料理人歴8年の僕が家庭用におすすめする一本は「全鋼の牛刀」です。
今回はその理由を独断と偏見で、わかりやすく解説します。
家庭用で迷ったら「全鋼の牛刀」がおすすめ
包丁を買うときに必ず出てくるのが「ステンレスにするか、鋼にするか」という問題です。

ステンレスの方が楽なんじゃないの?

確かに「錆びない」っていう点ではね。でもステンレスって鋼より柔らかいものも、堅いものもあるんだ。
ステンレスの包丁は、鋼の包丁に比べて「研ぎにくく、切れ味が戻りにくい」と感じることがよくあります。これには、ステンレス鋼の特性が関係しています。
研ぎにくさの原因
- 高い耐摩耗性: 錆びを防ぐために含まれているクロムは、刃の摩耗も防ぎます。このため、砥石で削るのに時間がかかり、研ぎにくいと感じられます。
- 粘り強さ: ステンレス鋼には、粘り強さを出すためのモリブデンやバナジウムといった成分も含まれています。これにより、刃先がツルツルと滑りやすく、砥石がかりにくいという特徴があります。
- 加工硬化: 一部のステンレス鋼(特にオーステナイト系)は、切削や研磨で熱や力が加わると、表面がさらに硬くなる「加工硬化」という性質を持っています。これも研ぎにくさの一因です。
すぐ切れなくなる原因
- 刃先の変形: 安価なステンレス包丁に使われる素材は、比較的柔らかい場合があります。この場合、研いだ直後は切れますが、食材を切る際のわずかな衝撃で刃先が曲がってしまい、すぐに切れ味が落ちてしまいます。
- かえり(バリ)の処理不足: ステンレスは粘り強いため、研いだ際にできる「かえり(バリ)」が取れにくい傾向があります。このかえりを完全に除去しないと、一時的に切れ味が良くてもすぐに切れなくなってしまいます。
解決策
- 砥石を使い分ける: ステンレス包丁には、セラミック砥石やダイヤモンド砥石など、研磨力の高い砥石が適しています。鋼よりも時間をかけて、しっかりと研ぐことが重要です。
- かえりを丁寧に取る: 最後の仕上げとして、砥石を変えたり、新聞紙や革砥(ストロップ)などで刃先を軽く擦ってかえりを完全に除去することで、切れ味が長持ちします。
- 高品質な包丁を選ぶ: 切れ味を重視する場合は、安価なステンレス包丁ではなく、硬度が高いステンレス鋼(例: 440C)を使った包丁を選ぶことで、より良い切れ味と持続性を得られます。

なるほど。日々の手入れはストレス掛からないけど、本気のメンテナンス時には鋼より時間が掛かるってこと?

その通り!毎日楽できるけど、いざって時は覚悟が必要だし、研ぎも難しい。僕も何年もメンテナンスしているけど、ステンレスは難しく感じているよ。
ステンレス鋼は錆びにくい反面、研ぎにくさや切れ味の持続性に課題があります。
ステンレスと鋼の違いについては、【貝印公式「包丁の構造」】や【貝印公式「鋼包丁の魅力」】でも詳しく解説されています。
鋼材についてのもっと知りたい方は【實光刃物「ステンレス系の鋼材」】をご覧ください。別ページに鋼についてのセクションもあります。
全鋼の牛刀をおすすめする理由
なぜ、僕が「全鋼の牛刀」をおすすめするのか理由をお話ししたいと思います。「全鋼」も聞き慣れないと思いますが、まずは「牛刀」について説明します。
牛刀は万能包丁
「牛刀」という包丁は、肉・魚・野菜、なんでも一本で対応できる万能包丁、家庭用に最適と思います。皆さんのご自宅にある三徳包丁の刃先が尖っているもので、全体的に少し大きいものと話すと想像しやすいと思います。
210mm前後がちょうどいい
先に少し大きいと書きましたが、サイズ選びは重要です。あまりにも大きいと家庭の台所では逆に使いにくいものとなってしまいます。僕はこれより大きいものを選びたくなりますが、大きさは210mmを最大に考えた方がいいです。
後ほど書きますが、手入れをしていくと刃は減って短くなっていきますので、その辺りも頭に入れてサイズ選びを行うといいでしょう。
全鋼がおすすめな理由
全鋼というものは、1枚の鋼材で刀身全体を構成する構造で、硬い金属を重ね合わせる「合わせ鋼(あわせがね)」とは異なり、刃全体が同じ材料でできています。利点としては、構造がシンプルなため、安価で丈夫な製品を作りやすい傾向があります。更に、研いだ際にどこに刃を付けてしまってもとりあえずは切れます。
ステンレスも全鋼も「硬さ」だけで比べてしまうと、焼き方や鋼材で差が出てきてしまいます。一般的に、すぐに手に入るような包丁として比較した場合には、全鋼の方が硬いです。しかしステンレスはアルミのような粘りもあり、研いだ際の「かえり(バリ)」が取れずに切れない事も…
ステンレスは柔らかい事もあり、まな板に接触する度に切れなくなっていく。なんて事は多く体験しました。

全鋼と合わせ鋼の違いや特徴・専門的な解説については、【實光刃物「割込包丁の構造」】が参考になります。
鋼包丁のデメリットと対処法
ここまで、「全鋼」つまり鋼のいいところしか言ってません。ここではデメリットを話していきたいと思っています。
サビやすい
鋼は兎に角錆びやすく、水滴が少しでも付着しているとすぐに錆びます。レモンやお酢などが入っているものに触れても乾くと錆びます。これを防ぐにはこまめに拭くことが大切なのですが、そんなことしてられない!なんて思う方もいるかと思います。安心してください。対処法があるので後ほど紹介いたします。
手入れが必要
錆びやすいので、拭くことが大切と話しましたが、それでも錆びてしまった場合にはサビトールという包丁の錆を落として、ついでにピカピカにしてくれるものがあります。これで磨けばイチコロです。
次に研ぎです。定期的に研ぐことでむしろ愛着が増していきます。「面倒だな」と思いますが、日々の料理中に「あ、ここは切りにくいな」「ここは切れるから、しっかり研げたんだな」「切れる場所だけ使っちゃお」と本当の意味での相棒へと進化していくことは間違いなしです。
鋼包丁は研ぐことで自分らしい切れ味が出てきます。研ぎ方については【こちらの記事】で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
初心者には少しハードルが高い?
ハードルが高いなんて考えないでください。家庭での使用なら一本買えば、間違いなく一生使えるでしょう。この「一生」にハードルを感じてしまうのかもしれませんが、気を構えることなく洋服と同じような感覚で大丈夫です。(ジーンズとかに近いかもしれません)
まとめ
家庭用の最初の一本は「全鋼の牛刀」で決まり!
結論として、家庭用で迷っている方におすすめするのは「全鋼の牛刀一本」です。
鋼はサビやすいという弱点はありますが、それを補って余りある切れ味と育てる楽しみがあります。
長く料理を楽しみたいなら、ぜひ鋼の牛刀を選んでみてください。一本を育てながら使う喜びは、きっとあなたの料理時間を豊かにしてくれるはずです。
ちなみに…それでも不安な方には、全鋼の牛刀一本(肉、魚用)、ステンレスの菜切を一本が最強セットだと思っています。牛刀は厚みもあり、根菜系は切ったときに割れてしまう可能性や、水分に弱く、玉ねぎを切った際には水分で錆びるなどなど実際に使っていくときに生じる細かな使いにくさもあります。なので手入れや使い方に自信のない方は、是非ステンレスの菜切の選択肢もあっていいのかなと思います。

これは、僕の家庭装備と一緒なんですけどね。これから包丁を買う方は、ぜひ全鋼の牛刀を検討してみてください。




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